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高齢化の進展を背景に亡くなる人の数が増えている。先月公表された人口動態統計の確定数で、令和4年の死亡数は156万9050人となった。統計を取り始めて最多だ。30年超で倍増した。
死亡数が前年比9%増と急増したのは、新型コロナウイルス感染症の流行が要因だが、高齢化は今後さらに進み、増加は一過性とはいえない。令和22(2040)年には167万人になることが予想されている。
「多死社会」の到来といわれ、さまざまな分野に影響が及びそうだ。既に葬儀場での火葬待ちや無縁墓の増加なども指摘されている。
とくに社会保障分野では介護や訪問診療、在宅看取(みと)りなどのできる環境を整えていくことが急務である。
死因で最も多かったのはがんで、心疾患、老衰が続く。亡くなった場所は病院が約65%と多いが、減少傾向にある。一方、自宅で死亡する人は全体の17%を超え、増加傾向だ。
国は在宅で看取りができる環境整備を進めているが、なお課題は多い。日頃から自宅を訪問してくれる、かかりつけ医がいる人はどれだけいるか。
例えば都市部には「大学病院がかかりつけ」という人も少なくない。だが勤務医は一般的には患者宅に出向かない。それでは安心して看取ってもらえる環境とはいえない。
訪問診療を行う開業医と、勤務医が連携する「複数主治医制」への移行を制度化してはどうか。オンラインを使った診療連携なども一案である。
自宅で死亡する人が増えているが、家族や医師に看取られて亡くなった人ばかりではない。単身者が自宅で死亡した状態で見つかるほか、かかりつけ医が訪問できず、警察の取り扱いになったケースもある。
専門医からは、警察に協力し異状の有無を調べる「検案」のできる医師が足りなくなることに懸念の声が上がっている。
検案ができる医師を増やそうと、厚生労働省の委託を受け、日本医師会が開業医らに「死体検案研修会」を行う取り組みもある。さらに推進が必要だ。
そうした役割を含め、訪問診療や在宅の看取りなど、地域医療を担う医師の重要性は増している。多死社会に備えた態勢整備を急ぎたい。
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2023年10月21日付産経新聞【主張】を転載しています